仙台高等裁判所 昭和26年(う)124号 判決
職権を以て調査すると、原判決はその証拠として被告人の原審公判廷における自白と、米国憲兵隊長の起訴命令書の記載なるものとを挙げているだけである。ところでこの「米国憲兵隊長の起訴命令書」とは記録第二五丁編綴の書面と解されるが、(その外にはこれに該当するものと認むべき書面は記録中にない)その書面は昭和二五年三月一四日附米軍憲兵隊長ドナルド・オー・タムソン中尉の八戸検察庁検察官及び八戸市警察署長宛の桑高松恵の政令第三八九号違反事件を日本裁判所に送附して相当の審判を受くべき旨要請する旨の書面に過ぎず、かつ、該書面に被告人の犯罪事実として表示してあるのは英文の部分で"Asamushi black-market case"(浅虫の闇取引事件)の三語あるのみ、日本文の飜訳中にはその点の訳文すら記載せられず、即ち、犯罪事実の記述は全然なされていないのである。従つて、この書類は昭和二五年三月一四日米軍憲兵隊長ドナルド・オー・タムソン中尉から八戸検察庁検事及び八戸市警察署長に対し、被告人の政令第三八九号違反事件(浅虫の闇取引事件)なるものを日本裁判所に送付して相当の審判をうくべき旨の要請があつたことを証する以外に、何等の証明力もないものといわなければならない。即ち、之を以て、原判示の事実たる被告人が公に認められた場合でないのに昭和二五年一月二九日頃青森県上北郡百石町で米兵某から米国軍票十弗一枚の両替を頼まれて受取り、之を不法に所持した旨の事実の自白を補強するものということはできない。従つて原判決は結局被告人の自白のみによつて被告人を有罪としたとの違法があるもので、その違法が原判決に影響を及ぼすことが明白であることは論を俟たない所であるから、原判決は破棄を免れない。